2022-01-01から1年間の記事一覧
『お父さんは、私が先になった事を怒っているんだ!。』「そうだ!。」私は思わず叫んだ。 私の胸中に、仲間との遊びの中で味わった先陣争いの優劣の場面、自分が劣り劣等感に苛まれた時の、苦くも腹立たしい気持ちが甦っていた。 先陣を子である私に取って…
「おい。」 私の背後から声がした。やや怒った様な声だった。 「お前何処へ行くつもりだ。」 父が私に声を掛けて来た。私が振り返ると、父は私に不愉快そうな視線を送って来た。 「そんな所へ何しに行くんだ。」 何って、私は思った。家の中に、こんな奥まで…
私は思った。幾ら客といっても、家の奥の奥に当たるこんな裏口に迄遣って来るなんて、妙な客だな。と。それで家内にいる声の人物達に不審感を持った。又、家内にいる筈の自分の家族、祖父母の身を案じた。そうして母の事も、私には少しは気に掛かった。 年寄…
あれの事で思い煩うのはお止め。夫はパシっとした声で妻に命じた。この声に妻は言葉も無く夫を見詰めた。彼女は何か言いたくてモゴモゴと口を動かした。が、彼女の口から何かしらの言葉は出てこず、頭にさえ、どんな考えもさっぱり浮かんでは来なかった。 『…
今年の敬老の日は、母にフラワーバスケットを送りました。16日にはもう届いた様です。年寄りの目には色が濃いめに映る、暗い色に映る様だ。と以前聞いた、お花屋さんのアドバイスを受けて、明るく薄い色目の花材の物を選びました。喜んでくれるといいのです…
今年もお盆が過ぎました。今年は新型コロナも3年目のお盆、というせいもありますが、外出自粛にも慣れてしまい、ポツポツ買い物、そして家でのんびりという、私にすると落ち着いた感じのお盆となりました。そこで、お盆の過ごし方について、暇に任せて検索…
何をぶつぶつ言っているんだい。夫が彼女の顔色を見て心の内を言い当てる様に口にした。 「ならぬ堪忍も堪忍袋の緒が切れるという事があるよ。」 「お前さんもいい加減に見限ったら如何だい。あれの事は。」 私はあれと違って無学だが、あれ程性根は悪く無い…
夫は常に自分には愛想が良い、愛妻家の鑑の様な人物としてこの長年来たものだ。だと言うのに、一体如何したというのだろうか、何だか何時もと勝手が違う…。妻は夫の様子を不審に思った。 「子は可愛いものでしょう。」 細々とした声で、遠慮勝ちに妻は夫に念…
「如何したんだい。」 反射的に夫は妻に声を掛けた。「ずいぶん顔色が悪い様だが…。」そう言いつつ夫はハッと思い当たった事が有った。 「あれだね、またあれが悪い風を吹かせたんだ。」 我が家に、この家に、何時も悪い風を吹き込むんだ。あいつは逆風の様…
おいおい。声に気付いて振り向くと、彼女の背後敷居の上に、何時戻って来たのか彼女の夫が立っていた。 「親も馬鹿は無いだろう。」 私はお前の夫だよ。夫の私が馬鹿なら妻のお前も馬鹿だろう。彼はそう言うと明らかに機嫌を損ねた顔付きになった。不機嫌そ…
否、いるんだ。誰かいる。戸口の影になった部分だ。誰か人が隠れているのだ。彼は思った。『誰だろう?。』。 父だろうか?、一旦その場を去った後、父は再びここへ戻って来て、戸口の影からこちらの様子をそっと窺っているんだろうか?。それが父だと思うと…
もしかしたら。彼はハッとした。『こちらの様子に合わせて彼等は口を閉じたのだろうか。』彼は推察したのだった。 機嫌を損ねたかな。親の話を盗み聞きするとは。自分は親から子としてはした無く思われたんだろうか。思わず彼の頬は赤らんだ。恐る恐る屋内の…
この家の裏庭では、この屋の若旦那であるらしい男性が焦ったく思いながら苛々していた。彼は一旦は彼の親に虚勢を張ってみた物の、その結果酷い目に遭うだろう事も予想していた。なので彼は直後から、内心ハラハラとその場を動かずに狼狽えていた。が、彼が…
「また以前の失敗を繰り返すんですか。」 一郎の時に懲りたでしょう。幼い子の前でその親を怒鳴ったり、乱暴したりと、お父さんの怒った姿を見せたら、あの子はその後如何なりました。妻は夫に切々と訴えた。それ迄はよく慣れた、とても可愛い子だったのに……
平日は日常 一寸好い物 御馳走と言う人も 実際、食もある、衣食住 気付いたら良い場所 人も声も歌もある、相和す合奏 実際、営みがある、喜怒哀楽 目覚めると善い所だった 今はそう感じる 町並み、通り、抜けて行くと 開けた場所から望む、山、また山の連な…
子供の父の方は自分の両親がいる場所、彼の後方に向いて意識が向いていた。彼はフンという態度で以って屋内にいる自分の父の言葉を受け流した。 「何も分かってない年端の、子供を育てている真っ只中の、文字通りに親の気持ちが、君達なんかに分かるもんか。…
さて、それと無く庭の周囲を見回した彼は、特にここには如何という異常も無い様だがと思う。そこで彼は自分の子に向かって言った。 「智ちゃん、何が有るんだ。」 お父さんが見る所、ここには、裏庭にはだが、何も不思議な物は無さそうだがなぁ。彼は子に向…
お父さんが、呼んでいた?。私の事を?。私は父の言葉を繰り返した。すると父は私の事を、おやと、何事か気付いたように眺め始めた。 「お父さん、私の事を呼んでたの?。」 もしかしたらと、私は父に問い掛けた。父が黙ったまま怪訝そうに頷くので、私はそ…
「お前こんな所で 何をしている?。」 私は父の声に気付いてハッとして振り返った。 「人が聞いたら直ぐに返事をする様言ってあるだろう。」 父は不機嫌な声でそう言うので、私は父の顔を注視した。やはり、私が父の声音から読み取った通りに父の表情は機嫌…
誰もいなくなった裏庭の光景。私はその空虚な庭の光景を1人眺め遣った。庭には見る程の花も無いのだ。 『ああ、少し赤っぽく色付いた物が有る。花かな?。』 紅系の花々が私の目に映った。向こうの盛り土の方向で何箇所かに群れて点在している様子だ。何の…
『この儘この子を家の中に返したら、後からどんなに両親が自分を責めるだろうか。下手をすると父に折檻を受けるかもしれない。』 我が子に嫌われる事よりも、実際に彼はその事を恐れていた。子と仲良くせよと、今現在の両親は推奨するのだが、昔の彼等はとい…
「お母さんと一緒じゃ無かったんだね。」 子供が父に語り掛けた。相変わらず父からは返事は無い。が、子からは見えない父の顔に、ああんという感じで彼の顎が突き出されるのを子は感じた。変な事を言ったかしら?、考えながら子は自分の父に歩み寄って行く。…
家の奥、台所に来ると父の姿は見え無かった。変だなぁ。子は思った。この子にすると父はてっきり台所にいるものだと思っていたのだ。しかし、台所にいると思っていた子の母でさえ玄関の方から姿を見せたのだ。『父も玄関にいるのもしれない。』子は思った。…
突然、ガラガラ…、ドン!っと、家の玄関上り口の方向で、小さな雷鳴が轟いた。『家の中で雷が鳴る?、なんて…。』私はその事を意外に思った。雷神に対する己が臍の喪失という恐怖よりも、屋内での雷発生という摩訶不思議な現象への不思議が私の内で勝った。…
そうですか、そう祖母は言うと、それでも視線は祖父に向けた儘で、ゆうるりと彼女は私の方へと膝を向け始めた。彼女は飽く迄自分の夫の様子が気掛かりなのだ。その後も私の祖母はこちらに向き果せ無いでいた。私は祖母に声を掛けた。 「お祖父ちゃん、怒って…
「そうだったのか。あの男、そんな男だったのか。」 夫は顔を曇らせて唸った。 「今まで騙されていたとは、私も迂闊だった。」 夫は顳顬に青筋を立てて怒りの表情を浮かべた。が、彼は相変わらずしんみりと元気無い様子で正座した儘の妻の姿に気付くと、彼女…
「いやぁ、修羅場だったね。」 食卓にしている黒っぽいちゃぶ台を前に、そこに座した私の祖父が目を細くすると微笑を作り、その場に居た家族皆の寡黙に幕を引く為か至ってさり気ない口調で口火を切った。私は自分の茶碗の中、それ迄せっせと口に運び込んでい…
「智ちゃん、お父さんには朝ご飯が少し遅れますって、言っておいてね。」 母は私に父への言付けをした。いいよと答えた私は、それも変だなと思った。ご飯の準備の話なら、『お祖母ちゃんにじゃないのかな?。』。聞き間違えかと思った私は、家に足を向けなが…
危ない! 妻の声だ。が、もう彼は振り返って背後にいる人物を見ていた。 「おやっ!?。」 彼は意外に思った。未だ幼い子供の姿が彼の目に入ったからだ。『子供じゃ無いか。』彼は内心呟いた。 次に彼は、妻の言った言葉、「危ない」という言葉が妙に気に掛…
彼は自分の心臓に手を遣った。ドキンドキンと大きな鼓動が伝わって来る。そうしてそれは段々と音を増し、今や早鐘のようだ。 カンカンカン… この時彼は故郷の村、過去にそこで聞いた半鐘の光景を思い出していた。彼の目の前に危険が迫っているのだ。彼の目の…